Nakai, You. Reminded by the Instruments: David Tudor's Music
https://scrapbox.io/files/6309c9c6d1ead8001ddb952b.jpg
https://scrapbox.io/files/65d5969effea01002629d036.png
作者:
#中井悠
出版社:
オックスフォード大学出版局
出版年:
2021年
説明:
「アメリカの音楽家デーヴィッド・チュードア (1926−96) は、ジョン・ケージやカールハインツ・シュトックハウゼンなど名高い実験/前衛音楽の作曲家たちの作品に欠かせない類まれなピアニストとして知られる一方で、ライブ・エレクトロニック・ミュージックと呼ばれる電子音楽のジャンルを確立したパイオニア的な作曲家としても知られています。そしていずれの活動においても、関わった領域の根幹を作り出す仕事をしたと言われています。じっさい他の作曲家が書いたスコアに対するチュードアの創造的な取り組みは「図形楽譜」や「不確定性」など実験音楽の基本を成す方法論を生み出すきっかけとなり、多数の自作回路をネットワーク状につなぎあわせた複合楽器による演奏という独自のアプローチは世界中の音楽家たちに大きな影響を与え続けてきました。しかしながら、チュードアは自分のやっていることについて話したり、書いたりすることをほとんどしない人でした。そのため、彼がどのようなことを考え、どのように音楽を作ってきたかは、研究者はもちろん、身近なコラボレーターたちにとってもずっと謎に包まれてきたのです。
とはいえ、こうした謎めいた人物像自体が、パズル好きだった稀代のパフォーマーであるチュードア自身によって演出されたものであるようにも思えます。言葉で自分のやっていることを説明しなかったチュードアは、それと引き換えに異様なほど多くの「モノ」をあとに残しました--夥しい数の自作楽器と回路図やダイアグラム、走り書きのようなスケッチやメモ、1940年代にまで遡るレシートや機器の説明書、断片的なレコーディングの数々。これらのほとんどは残そうという強い意志なくしては残り得なかったものです。つまり、「チュードアというパズル」は「チュードアによって作られたパズル」だと考えることができる。そしてそうだとすれば、それを解く一番良い方法は、図形楽譜に対するアプローチなどに垣間見られるチュードア自身のパズルの解き方を応用することでしょう。このような考えに基づいて、チュードアの方法論を抽出した上で、それを使ってチュードアが残した多くのマテリアルを読み解く作業に取りかかりました。その結果、長いこと隠されていた制作の全貌が見えてきたのです。
およそ十年に及んだ研究の成果をまとめた本書は、残されたマテリアルをパズルピースのようにつなぎあわせながら、チュードアの活動と思想を丹念に再構成する世界初の試みです。700ページを超える記述と300点を超える図像を通じて浮かび上がるのは、「演奏者」と「作曲家」のような概念区分をそもそも考慮に入れず、そのつどのパフォーマンスに関わる「マテリアル=楽器」に内在する具体的な原理に焦点を合わせることで音楽を作り出してきた一人の音楽家の特異な実践です。より一般的に言いかえれば、これまで「音」の次元に固執してきた実験音楽の言説と実践を、音を作り出すマテリアルとしての広い意味での「楽器」から再考する研究だと言えるかもしれません。多くの作曲家たちが、「デーヴィッド・チュードア」をピアニストではなく固有の「楽器」とみなしていたことを思い返せば、そのようなまとめは尚更ふさわしいようにも思えます (たとえば、チュードアと活動を共にした音楽家ニコラス・コリンズは、本書を「トランジスタ登場以降の音楽分析のパラダイムを変える画期的な研究」と評してくれています)。ただし、一般的な次元に回収されない個別の取り組みに固執することこそ、本書を貫くチュードアの教えでした。だからこそ、この本を手にとってじっさいにページをめくってくれる読者が日本でも現れることを願っています。」(UTokyo Bilioplazaより)
特設ウェブサイト:
http://remindedbytheinstruments.info
イタリア音楽学会における合同書評会:
https://www.youtube.com/watch?v=vXbRHapjSDM
#中井悠
#タイプ:文献
#本
#2021年